東京世田谷、経堂駅から4分ほど歩いた場所に「おかずのうつわ屋 本橋」があります。農大通り商店街の賑わいから、通りを一本東にずらした場所に建つ、落ち着いた雰囲気の器のお店です。

もとは1998年、黎明期のネット通販から始まったお店。食卓を楽しくしてくれる、雰囲気のいい器たち。でも手の届く価格帯で、日常使いできる器たち。そんなコンセプトで本橋真紀子さんが一人で始めたネットショップは、2010年には実店舗を構えるに至り、そして2022年4月の今回、ここ経堂の地に新装オープンしました。

土からできた器の数々を、木でできた什器や柱がディスプレイしてみせる空間には、しみじみとして落ち着いた味わいがあります。

お店の立ち上げから今回の移転オープンまで、本橋さんにお話を伺ってきました。

(2022年5月10日 取材)

 


 

— おかずのうつわ屋さん、立ち上げたのは1998年ですね。

そうですね。いちばん初めはもうインターネットだけの。

 

— 楽天ですか?

楽天ではなく、オリジナルの独自ドメインで。

 

— 98年だと早いですね。

ちょうど楽天さんが立ち上がったくらいのころですね。

 

— そのときなんでこの事業を立ち上げようと思われたんですか?

もともと食品会社に勤めておりまして、そのときにその会社が、食品の通販の会社を一つ立ち上げまして、ネットではなく紙媒体の通販ですね、そこに出向してマーチャンダイザーをやってたんですよ。

 

そのときに食品のほかに、テーブル周りのものも仕入れをしてマーチャンダイズをして。そんな仕事を始めるうちに、食器、器の面白さに惹かれていったんです。

 

ちょうどそのころに、結婚して出産という経験をするんですね。夫は私と同じ会社にいたんですけど、転勤族で、当時は岡山にいたんです。私は東京にいたんですけど、子どもも生まれるし、この先お互いがそれぞれいろんなところへ転勤していくのは難しいなと。それで出産を機に会社を辞めて、自分一人で食器の仕事をやろうと思ったんです。食器なら、自分で立ち上げていけるんじゃないかと思って。

 

それでまず子どもを産んで、そこから一年ちょっとでサイトを立ち上げたという感じですね。

 

— 食器の何に惹かれたんですか?

身の程サイズのビジネスだったからかもしれないですね。

 

もともと器がすごく好きだったっていうわけではないんです。ただ、実家が料亭をしていたので、今振り返ると、割といい器が家に揃ってたので、そういう素地はあったかもしれないです。

 

それで、紙媒体でしたけど通販の会社へ出向して、実際に器を自分で仕入れて、それが売れていくのを見ると、これは面白いなと。これなら一人でもスタートできるんじゃないかと思ったんです。

 

大きな企業にいたからこそ、小さいビジネスをやってみたかったっていうのもあったと思います。

 

— どれも手の届く価格帯で、しかも毎日の食卓に並んだら素敵だなって思える器ばかりですね。

店名の「おかずのうつわ屋」っていうのが、そういうことなんです。

 

普段使いできるんだけど、その普段使いの器を、自分の中で本当に好きなもの、自信のあるもので揃えていくと、食卓がすごく豊かになるし、楽しくなる。そうなると家庭の雰囲気も良くなるっていう。

 

あともう一つ、そうですね、そういう器に特化しようと思ったのは、ちょうどそのころ周りの友達たちも結婚して、遊びに行ったりしてたんです。そこでいろんなお料理とか出してくれるんだけど、器によってだいぶ違うんですよね。こんなに美味しい料理なのに、「もう少し器を工夫したらいいのにな」って思うことがけっこうあって。

 

でも、普段使いで手の届く価格帯でっていうマーケットが、当時は意外となかったんです。100均だったり、スーパーのような量販店に並ぶものと、あとは一気に百貨店や、ギャラリーさんのものになっちゃうんです。みんながいちばん欲しいなと思う食器を買うところが、意外とない。そこを私は始めたんです。

 

— 創業したときからその考えだったんですか?

そうです。それから今日までずっと、その考えでやってますね。

当時は、そこがちょうど空いてたんですね。

 

— リアル店舗を持ったのはどういう経緯で?

もともと実店舗はやりたかったんですよ。ただまあ、夫の転勤があるのはわかっていたので現実的ではないということで、ネットショップとして始めたんです。

 

同じ通販でも紙媒体となると、非常にお金がかかるんです。印刷代もそうですし、問い合わせも全部オペレーターさんがいないとできないですし。とても個人でできるっていう仕事ではないんですね。

そうすると、当時だとインターネットがいちばんだったんです。一人で立ち上げられて、一人で全部回せる。

 

そうこうするうちに夫の海外転勤が終わって、今から13年前ですかね、日本に戻ってきて、子どもも小学生、中学生になっていたので、ここから先は、もし夫が転勤になったとしても単身で行ってっていうのもあるだろうし。ということで、だったらもう店舗が欲しいなと。

 

— それで最初の店を千歳船橋に。

そうです。

 

— それが何年のことですか?

2010年ですね。

そこから12年、今回ここ(経堂)に引っ越してきたんです。

 

— もともとリアル店舗を持ちたかったっていうのは、やっぱり器っていうのは、実際に置かれた空間が大切だから、という?

やっぱり手にとって見たいというお客様が多いですし、私自身、お客様とのやりとりっていうのが好きなんです。

コロナがあった今となっては、ネットと店舗の両方のチャネルがあるっていうのはすごくいいことだなって実感しましたね。

 

— 今回経堂に移転オープンしたのはどうしてですか?

千歳船橋の店が狭かったんですよ。雰囲気もイマイチで、「とりあえずここでいいんじゃないの」くらいの感覚でスタートしてしまったので、什器とかも安い感じのものを使ってたりして。やっぱりやってて日々、自分としては不満が溜まっていくんですね。

 

ただ売り上げ的に、うちはネットのほうがぜんぜん大きいので、在庫置場兼、お客様にもちょっと見ていただけるスペースっていう程度の感じだったんです。

でも、いつかやっぱり、もう少しきちんとしたお店にしたいと思って。

それでずっと物件も見てたんですけど、なかなかこれっていう物件がなくて。それがようやくっていう感じです。

 

— 物件探しは苦労されましたか?

経堂に決めてから3年かかりましたね。

 

— 経堂でっていうのは決めてたんですね。

絶対経堂でっていうわけではないんですけど、自分の自宅が経堂なので、だいたいこの近辺でって。

 

— 街の雰囲気とかもあるんですか?

千歳船橋と経堂って意外と違うんですよね。

千歳船橋は住宅街で、そこにちょっと商店があるっていう感じ。飲食店はいいと思うんですけど、物販となると千歳船橋はちょっと厳しいかなっていう。

 

やっぱり経堂のほうがお店の数が圧倒的に多いので、街を歩いている人もお買い物をしようとして歩いている人が多いんです。

 

あと、もともとうちの店は飲食店のお客様も多いんですけど、移転オープンして、ここ一ヶ月の間にもけっこう飲食店の方がいらっしゃってます。買いやすい値段でもあるので、ぜひ、飲食店の方にも見ていただきたいですね。

— ちなみに山翠舎に内装を依頼したのは、どんな経緯があって?

仙川に「餡の輪」さんっていう和菓子屋さんがあって、そこがすごく素敵で。私、娘の学校が近かったのでよくその和菓子屋さんに行ってたんですね。

 

この雰囲気、素敵だなあ、どこが施工されてるのかと思ったら、山翠舎さんだっていうのがわかって。で、山翠舎さんの施工した他の店も見たら、どこも木を生かしててすごく素敵。うちは器で、土物、石物なので、木との相性がすごくいい。だったら思い切って聞いてみようかなと。

 

— そしてできあがった空間を見て、どうですか?

私としては100%満足ぐらいの感じです。

 

— 中でも特に気に入ってるポイントは?

最後まで迷ったんですけど、やっぱりこの柱(店内の古木の柱)を入れてよかったなっていうのと、あと、お客様によく言われるのが壁紙、壁紙とは思えない感じに仕上がってて、それが雰囲気にものすごく合ってて。

 

— これからやっていきたいこと、こんな風にしていきたいといった夢はありますか?

今まで作家さんの個展とかはできてないんですよ。これだけのスペースが取れているので、だからちょっとミニ個展みたいなものはやりたいですし、作家さんに聞くと、ぜひやらせてっていうお話もすごくいただくので。

 

あとはワークショップ的なもの。6〜7人の小さい会ですけど、作家さんを呼んで、作ってきた器に絵付けをしてもらうとか、そんなこともやりたいですね。

 

— 今日はありがとうございました。